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『歳神様の迎え方』


本来のお正月の意味や由来を学ぼう『歳神様の迎え方』

暮らしの行事が簡略化される現代。とはいえ、お正月くらいは先人が伝えてきた伝統を見直したい―。そんな思いで、リビング読者にアンケートを実施したところ、さまざまな質問・疑問が集まりました。回答者は、民俗学者の神崎宣武さん。
意味や由来の説明とともに本来のお正月について解説していただきました。

イラスト/銀杏早苗 写真はイメージです

民俗学者の神崎宣武さんに聞きました

民俗学者。旅の文化研究所所長、文化庁文化審議会委員、東京農業大学客員教授。岡山県宇佐八幡神社の宮司も務める。『神さま仏さまご先祖さま「ニッポン教」の民俗学』(小学館)『しきたりの日本文化』(角川ソフィア文庫)など著書多数

 

Q、お正月はいつから始まり、いつ終わるの?

A、まるまる1カ月だから“お正月”といいます

 

 お正月とは、歳神様を家の中にお迎えするための大切な家庭行事です。旧年の運気をリセットして新しい歳神様に来てもらうため、江戸時代は、12月13日にすす払いをし、門松の松を山に採りに行く「松迎え」を事始めとしました。そのあと餅(もち)つきをしたり、注連(しめ)飾りを作ったりして、正月準備に半月も費やしたのです。

 そして暮れのうちに歳神様を家にお迎えして、お正月の間は居てもらい、山に帰ってもらいます。それが、1月15日で事仕舞いです。今でもとんど焼きを15日にするのはそのためです。このように12月半ばの事始めから1月半ばの事仕舞いまで、まるまる1カ月間だから“お正月”と言いました。

 江戸時代、江戸の事仕舞いは1月7日、江戸以外の地方では1月15日でした。正月を早く切り上げる江戸の都市現象が全国に広まって、今では6日夕方や7日朝に正月飾りを取り払う地域が多くなっているようです。隣近所に合わせて7日に外すのでも構いませんが、本来は15日なので、15日に外しても全く問題ありません。

 

Q、床の間がありません。鏡餅を玄関に飾っていますが、構いませんか。

A、玄関でもOK。ただし高さをつけて丁寧に

 

神様へのお供えものは
三方と呼ばれる台の上に載せます

 玄関にどういう飾り方をしているでしょうか。三方(さんぽう)の上に飾っているならいいですが、下駄箱の上にじかに置いているならお粗末です。また、「玄関から歳神様を迎える」「玄関にも神様がいる」という考え方で、床の間と玄関の両方に飾っても構いません。しかし、スリッパと同じ高さではまずい。しかるべき高さをつけて飾ることが大切です。

 床の間がない場合は、仮床(かりどこ)という考え方が昔からあります。リビングのきれいな場所に、箱でもいいし、小さい机でもいいので、東向きか南向きにしつらえて飾ればいいのです。また、棚の上や洋服だんすの上にクロスを敷いて、そこに供えるというやり方もあります。

 

Q、門松や鏡餅はどういう意味があるのですか。

A、歳神様の依代(よりしろ)です。門松は松が大事

 

 歳神様がどこに居るかというと神社にいるわけではありません。歳神様は山からやって来ます。そのとき、松を依代とします。乗り物に相当する松を粗末にできないので、立てておかなければなりません。そのため玄関先に門松を立てます。門松は、歳神様がこれに乗って来たという印、歳神様を迎えたという印です。だから竹や梅よりも、松そのものに意味があります。住宅事情で本格的な門松が難しければ印刷物でもいいでしょう。

 最初に門松に依(よ)りついた歳神様は、次に鏡餅に依りつき静まります。その鏡餅を下げて食べることで、歳神様のパワーをいただくのが御魂(みたま)分け。歳神様の御魂分けなので歳魂(としだま)といい、それがお年玉となりました。かつては主人から使用人へ、家長から家族への贈り物の総称で、小餅が多かったようです。

 飾る順番は、門松を立てて、鏡餅を設置し、神様を迎え、そのあと「ここは歳神様を迎えている神聖な場所」という標識として注連縄(注連飾り)を張るのが正式な順序といえます。29日(二重苦)を避けるのは語呂合わせ。大晦日に飾るのは「一夜飾り」といって避けられてきました。できるだけ大晦日の前日までに飾っておきましょう。

※門松を飾り終わったら、注連飾り同様、神社の納札所やとんど焼きへ

 
読者アンケート

  • Q注連飾りは飾りますか

    はい127人/いいえ28人
  • Q鏡餅は飾りますか

    はい114人/いいえ41人
  • Q神棚はありますか

    はい58人/いいえ97人

※アンケートは、2013年11月30日~12月9日、本紙、HP、メルマガで実施。回答数は155通

Q、神棚がありません。お宮参りで授かった神社のお札をどこに置けばいいの?

A、きれいな高い場所で東向きか南向きに

 

 神棚がなく、床の間があるなら、床の間を使います。神社のお札も、台の上に置いて床の間に飾るとよいでしょう。

 床の間がない場合は、きれいで高い場所が第一条件です。できれば東向きか南向きにしてください。神棚を設置するときも東向きか南向きが基本です。柱を汚してもいい場合は、お札を鴨居より上の位置に、両面テープで貼り付けても構いません。

 八百万(やおよろず)の神々は神様同士、けんかはしないので、一つにまとめて問題ありません。神社の格式があるので、中央に格式の高い神社、周りに氏神様のお札を置きます。旅行中に授かった神社のお札は、どこの神社に返しても結構です。納札所のある神社に持っていけば、神社でおはらいをして焚(た)き上げてくれます。お札の年限は1年。1年後には持っていくようにしましょう。

 

Q、年越しそばはいつごろ食べるものなのでしょうか。

A、歳神様と一緒に食べるという意味なら大晦日のうちに

 

 年越しそばは、テレビの普及で広まった、最近の風習です。江戸時代、12月13日に大掃除がどの家でも行事になっていたころ、大店(おおだな)のすす払いには、出入りの職人や奉公人などが、われもわれもと手伝いに行ったそうです。

 今年は「倍返し」が流行語になりましたが、昔から倍返しはありました。地位が上の人は、いい意味で倍返しをするのが普通だったのです。大掃除でも労働以上のお小遣いが得られることを期待し、たくさんの人が集まりました。この大掃除に来た人たちの昼食として、簡単に食べられるそばが振る舞われていました。

 そうした風習がなくなり、大掃除の時期が勤め人の御用納めと近づいて、いつの間にか年越しそばという位置づけになったというふうに考えられます。

 歳神様は暮れのうちにやってくるので昔は歳神様を迎えて歳神様と一緒に食べる「年越しの膳」がありましたが、それが省略されて、そばが入り込みました。歳神様を迎えた祝いとして食べるのであれば、大晦日のうちなら何時でもいいでしょう。ちなみに岡山は主としてうどんを食べる地域だったので、昔は年越しそばを食べる習慣もありませんでした。

 

これが岡山ならではのお飾り

 注連飾り(お飾り)の形は、各地域で異なることをご存じでしたか。右写真が岡山ならではの形。注連縄を輪のように丸くしているのが特徴です。また、てっぺんに穂を付けるのは岡山独特だそう。

 今年出荷された岡山のお飾りは約9万8000個。産地は岡山市中区高島、西大寺吉原、東区吉備中央町賀陽地区の3カ所で、そのうち約70%を高島が占め、岡山市農協高島お飾り部会(約30軒、60代~80代)の生産者が、伝統的なお飾りを手作業で作っています。お飾り作りは稲を育てるところから。種をまき、青刈りをし、乾燥させて仕分けします。そのほか真ん中の飾りのわらを色粉で染めたり部材を作ったりと、さまざまな作業があり、約8カ月もかけて丁寧に作られているのです。

 

「リビングおかやま」「リビングくらしき」2013年12月28日号掲載

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