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手から手へ―受け継いだ技と心を届ける 岡山で伝統工芸をつなぐ男たち


後継者不足といわれる中、技と心を受け継ぎ、真摯に向き合う男たちがいます。

手から手へ―受け継いだ技と心を届ける 岡山で伝統工芸をつなぐ男たち

もんげ〜岡山アイコン

 岡山の伝統が息づく工芸品。後継者不足といわれる中、技と心を受け継ぎ、真摯(しんし)に向き合う男たちがいます。手仕事に触れたとき、内に秘めた志や新たな息吹を感じられる―。手から手へと伝統工芸をつなぐ、作家と職人5人のもとを訪れました。

備前焼

森本 仁さん(40歳)

モダンでシャープ、軽やか 普段の料理が引き立つ器を

森本さん

工房でろくろをひいている様子
作品は半地下の登り窯で、1~2週間かけて焼成。作陶で用いる道具にも美しい手仕事が光るのは、造形大学の彫刻科で学んだから。
備前焼のほか、釉(ゆう)薬を使った黄瀬戸、灰釉、黒釉なども制作。東京・銀座の人気ギャラリーや地元のデパートで個展も

花器

備前焼は国指定の伝統的工芸品。写真の花活(い)けは、森本さん自身が手掛けたもの。花器5万4000円

三角皿

焼き締めでありながら、艶やかな印象の三角皿。磨きをかけた、つるりとした手触りが特長。大・1万800円、中・6480円、小・3780円

 重厚感と温もりがありながら、モダンでシャープ、軽やかな印象―。伝統の中に、現代のエッセンスを加えた作品を生み出す備前焼作家の森本仁さん。備前に生まれ、父親も陶芸家として活躍しています。

山深く、急な坂道に続く一軒家と工房。刻々と表情を変える自然に触れ、五感を響かせながら、作陶に励んでいます。「暮らしと人間性が、作品に表れることを修業先で痛感しました」と森本さん。

 住み込みで4年間、陶芸の基礎を学んだ岐阜・美濃では、「食事作りや人付き合いの作法など、生きる術(すべ)を何も知らないと気付いて…。先生には〝何を作ろうかと腕組みするぐらいなら、草むしりをしろ〟と言われていましたね」と当時を振り返ります。

 この経験から、早寝早起きを基本に、庭の手入れをしたり、自ら育てた山野草を愛でたり、仕事場を掃除したり…生活を整えることを大事にしています。その積み重ねが、土づくりから焼成までの工程にも宿り、凜(りん)と佇む森本さんの作品。備前焼は釉薬(ゆうやく)を使わないため、ごまかしが利かず、指跡もすべて出てしまいます。素材は、きめ細かで良質な備前の田土(たつち)。従来の備前焼のイメージにとらわれず、素材をどう生かすかを考えるのが、面白くて、難しいところ。

 「普段の料理が映えて、日常的に使ってもらえる焼き締めの器を提案しています。お客さんが〝これ、いい!〟と選んだものが備前焼だったら理想的。若い方にもどんどん手に取ってもらえるように備前焼の可能性を広げ、魅力を伝えることが使命だと思っています」

【取扱店】
森本さんのブログで、作品が購入できる個展を案内。「備前 やきものと暮らし」で検索を
【問い合わせ】
森本 仁さん(備前市友延)
Eメール=h.morimotom@gmail.com

イ草

須浪 隆貴さん(23歳)

23歳の担い手が気負いなく真っ直ぐな思いで作る〝いかご〟

須浪さん

工房にはかごや椅子、器、置き物など国内外の民芸品がずらり。「産地ごとに暮らしの背景が見えるのが、民芸の魅力です」と話します。
デザイン専門学校で学んだ技術や知識を生かして、ホームページ作成やDMなどで使う写真撮影も自身でしているそう

いかご

何年も使っていると、味わい深い茶色に変化。性別、世代を問わず使えるデザイン。右からいかご大・1万1880円、中・1万800円、小・9600円

びんかご

昔、しょうゆを買いに行くときに使っていた「びんかご」は、野菜の保存袋にもぴったり。「びんかごを作るワークショップを通して、今の子どもたちに〝イ草〟という素材があることを伝えたい」と須浪さん。大・2160円、小・1728円

 昭和20~40年代に買い物かごとして流通していた、イ草のかご「いかご」。い草産業が機械化とともに衰退し、PP(ポリプロピレン)バッグが登場したころから、徐々に見掛けなくなりました。

 イ草の産地・倉敷市茶屋町。祖母が一人で細々と続けていたいかご作りを、2年前に継いだのが「須浪亨商店」の若き五代目・須浪隆貴さん。明治19年創業、130年の歴史があり、主に花ござを製造していました。ところが、父親が若くして亡くなり、10年前に一度、廃業。「母は反対したのですが〝いかごを作りたい!〟という決意は変わりませんでした。継がなければいけないという責任感ではなく、やりたいから、やっているんです」と穏やかな口調ながらも、きっぱり。その姿から、真っすぐな思いが伝わってきます。

 昔は近所に4、5軒、いかごを編んでいたところがあったそうですが、今は国内で唯一の商店に。幼いころから家業を手伝っていたため、祖母に習わずとも自然に手が動いたのだといいます。

 本体には、香りが立つよう「泥染め」をしたイ草を、持ち手には無染土のい草を使用。30年間、使い続けている大型の木製機織り機に、イ草を1本ずつ、計55本を縦に掛けた後、シャトルという道具で横にも掛け、生地を織っていきます。生地の両端をかがり、かごの形に組み立て、持ち手を手で編んでいけば完成。

 「祖母が作っていたものをベースに使いやすいよう、持ち手の編み方や長さ、サイズは多少変えていますが、あえて素朴な風合いに仕上げています。すぐ手に取ってもらえる、商店の身近な日用品でありたいですから」

【問い合わせ】
須浪亨商店(倉敷市茶屋町)
ホームページの「contact」からメールを。HPは「須浪 亨商店」で検索を
TEL.090(5268)1509(制作中などは出れない場合あり)

津山箔合紙

上田 康正さん(51歳)

金箔を守るための箔合紙 全国で唯一残る手仕事を届けて

上田さん

1日平均300枚、1枚ずつ丁寧に箔合紙を漉きます。気温や湿度などで仕上がりが変わるため、品質を一定に保つ難しさがあるそう

津山箔合紙

津山箔合紙は県指定の郷土伝統的工芸品。津山箔合紙(55×69㎝)は1枚140円、写経用紙(10枚入り)は702円

 金箔の保存に欠かせない津山箔合(はくあい)紙。金箔と金箔の間に箔合紙を挟むことで箔が付着せず、格段に扱いやすくなります。

 津山箔合紙を先代とともに手漉(す)きで作り続けているのが「上田手漉和紙工場」七代目・上田康正さん。全国でたった一軒しか残っていない箔合紙が生まれる場所は、横野滝(津山市上横野)に続く道沿いにあります。

 美作地方は、箔合紙の原料となる、みつまたの木の産地。黒皮を取り除いたみつまたの白皮を石灰で約2時間煮込むと、繊維が傷まず、赤みがかった色が出るのだそう。

 さらに、横野滝から流れてくる川水にさらすと、より濃い茶色に。1、2時間かけて洗った後、一晩、川水に浸けてアクを出し、軟らかくします。

 専用の機械で、細かく砕いた後、粘り気のある植物・トロロアオイを加えて、ようやく紙漉きへ。みつまたは繊維が短いため、紙漉きの道具・竹製の簀(す)と桁(けた)を激しく、細かくゆすって複雑に絡ませます。毛羽立ちがあることで、金箔に挟んだときに空気の層ができて、うまくはがれるのだそう。

 上田さんの思いは「金沢の金箔職人が必要と言ってくれる限り、手を抜かず、良質な品を届ける責任があります。一般的な工芸品ではありませんが、津山で箔合紙を作っていることを知ってもらえたらうれしいですね」

【取扱店】
晴れの国おかやま館(北区表町)
TEL.086(234)2270
【問い合わせ】
上田手漉和紙工場(津山市上横野)
TEL.0868(27)0960(制作中などは出れない場合あり)

郷原漆器

高月 国光さん(40歳)

「山栗の木目を生かした漆器は素朴で格好いいんです」

高月さん

木地の作業風景。1~2分であっという間におわんの形に

津山箔合紙

郷原漆器は県指定の郷土伝統的工芸品。復活前は木目が見えないよう漆を塗っていましたが、復活後は木目を生かすように。漆は蒜山産。軽いので子どもでも使いやすい。
汁椀6372円

 蒜山高原の郷原地区。600年の伝統がありながら、昭和20年の終戦を境に生産が途絶えた郷原漆器。地元有志の復活活動が実り、平成8年に「郷原漆器の館」が誕生し、生産拠点となりました。

 同館の館長・高月国光さんは、郷原漆器の一番の特徴である木地づくりを担っています。高校・大学時代、空手の試合や合宿で海外遠征へ。異文化に触れるたびに「日本の伝統文化が大切なのではないか」「英語の〝Japan〟は、漆器の意味もあるんだ」という気付きから、漆器に興味がわき、出身地の児島から石川県に移り住み、山中漆器の研修所で4年間修業しました。

 「郷原漆器は、真庭市内に自生する山栗の木を生木のまま輪切りにし、年輪を中心に、ろくろで木地をひきます。そうすることで、一つ一つ異なる年輪の表情が生きてくるんですよ」と高月さん。その後、乾燥させ、美しい木目が引き立つよう、下地から仕上げ塗りまで黒または朱の漆を丁寧に重ねていきます。最近では白漆を施したものも。

 「素朴で、原木の格好良さと温もりがあります。小学生が〝このおわんでみそ汁を飲みたい〟と言ってくれたときは、思わず頬が緩みました」

【取扱店】
ELD(イールド)(北区横井上)
TEL.086(259)1050
晴れの国おかやま館(北区表町)
TEL.086(234)2270
※店により取扱商品・サイズは異なります
【問い合わせ】
郷原漆器の館(真庭市蒜山上福田)
TEL.0867(66)5611(制作中などは出れない場合あり)

勝山竹細工

平松 幸夫さん(39歳)

使い込むとあめ色に 使い手が仕上げをする籠

平松さん

湯籠につづらで縁巻きをしている様子

津山箔合紙

青竹の爽やかな香りがする勝山竹細工(つづらを使用した製品のみ)は、国指定の伝統的工芸品。
右から、昔から使われている「飯ぞうけ」(大・1万2960円)、「米揚げぞうけ」(小・8640円)、平松さんが考案した「手提げ籠」(小・1万2960円)。
10・11月の新月の前に、1年分の青竹を刈り出します。特長は〝ゴザ目編み〟というシンプルな編み組み。青竹の皮と白色の身の竹ひごを交互に編んでいきます

 稲刈り体験で出会った竹細工。「そこに参加していた主婦が、自ら編んだという竹の手提げ籠に目を奪われたんです」と話すのは、県内でただ一人、勝山竹細工を手掛ける「平松竹細工店」の店主・平松幸夫さん。

 岡山市内の竹細工教室に通いながら、「勝山竹細工の名匠として知られる、川元冨士雄さんの技をそばで見たい」という思いが募り、平成19年、早島から勝山に移住しました。

 技は見て覚えるもの―。しかし、川元さんは手が早くてついていけず、約1年かけて、ビデオカメラですべての籠の工程を収めました。ところが、その矢先、高齢だった川元さんは病気で他界。ほとんど修業時代がなく、手探り状態でしたが、店の看板を出すことに。毎日、目に焼き付けていた川元さんの伝統的な手仕事と、繰り返し作ることで体得した手指の感覚や力加減を頼りに、技術を高めています。

 「青竹は木と違って、鉈(なた)を使えば自力で切り出せるし、籠づくりに電気はいらない。道具は少しでいいし、数時間編むうちに、何十年も使える籠ができる。古くからあるものは、理にかなっているんです」と平松さん。とはいえ、〝竹割り3年、ひご取り5年〟を要し、手練が光ります。

 「使い込むと少しずつあめ色に経年変化し、竹ひごの角がつるつるの手触りになります。使い手が仕上げをしてくれるんですよ」

【取扱店】
晴れの国おかやま館(北区表町)
TEL.086(234)2270
※写真とは取扱商品が異なります
【問い合わせ】
平松竹細工店(真庭市勝山)
Eメール=take-kago-ya64@willcom.com
TEL.070(5671)1836(制作中などは出れない場合あり)

「リビングおかやま」2016年11月19日号掲載

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