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個性が光るリアル書店に注目 本屋と人の新たな関係


ネットでたいていの本が購入できる時代、それでも行きたくなる本屋さんとは?
本をこよなく愛する店主や書店員が作る棚。その店だからこそ出会える本。
ネットでは味わえないリアル書店ならではの魅力を楽しみましょう。

10/27~11/9 は読書週間 個性が光るリアル書店に注目 本屋と人の新たな関係

ライブやワークショップ、著者を招いたトークイベント…本の販売だけでなく、意欲的な試みをして、文化を育み、発信する面白い本屋さんが登場しています。
本屋と人の新しい関係が、街の文化をもっと豊かなものにしてくれそうです。

高橋人生堂書店

新刊×ランチ

村上春樹が名付け親の、村上春樹専門書店

 開店する前、作家の村上春樹さんに宛てて「大ファンです。村上さんの本を中心にした本屋さんをやります」と手紙を書いた高橋頼子さん(64歳)。「ぼくだったら、高橋人生堂書店という名前なら入ってみたいと思いますよ」という返事を本人からもらったことが店名の由来です。〝村上春樹専門書店〟という通り、9割が彼の著書(新刊)。ここに来ればほとんどの本が手に入るとあって、県外からも春樹ファンが来店します。

 お昼は「いろいろなおかずが少しずつ食べられるから」とランチが目当ての常連客が多いため、ランチは予約がお勧め。自宅書店なので、居心地の良い友人宅に招かれたときのようにくつろげる雰囲気。地元の女性の憩いの場になっています。

【高橋人生堂書店】
倉敷市茶屋町431-25
☎050(7543)5214
11:30~17:00営業 火曜・第3日曜休み
※10/31(土)臨時休業
P3台、茶屋町駅から徒歩5分
常連さん

早島から時々やってくるという女性2人。
ランチが目的ですが、時々村上春樹の本を購入して読んでいるそう

高橋頼子さん

高橋頼子さん

看板

住宅街の中で、この看板が目印

スロウな本屋

新刊×ワークショップ

本・人・こと・物が出会い、ゆるやかにつながる

 本が大好きで、大型書店の店員として働き続けながらも「大量生産や勝ち負けではない、スロウな生き方を提案する自分の本屋を開きたい」という夢を育んできた小倉みゆきさん。友人の助けを借りながら古い民家をコツコツと改装し、今年4月、その夢を実現させました。

 静かな時間が流れる店内。棚には、季節ごとの手仕事を教えてくれる本もあれば、エネルギーや政治の本も。「それらも含めて〝暮らし〟だから。本を読んで自ら行動するきっかけにしてほしい」というのが小倉さんの思い。

 もう一つの思いは、本・人・こと・物が出会い、つながる場にしたいということ。著者を迎えて思いを聞くトークイベント、子どもたちが本を通じて哲学するワークショップ、大人がお気に入りの一冊を持ち寄る絵本の会、美作の果実で作ったジャムの販売…。来店した人と人が出会い、「こんなことをやりたいね」とおしゃべりして新たな企画も生まれています。小さな本屋さんだからこそできる試みが、これからも続きます。

【スロウな本屋】
岡山市北区南方2-9-7
☎086(207)2182
11:00~19:00営業 火曜定休
※10/24(土)臨時休業
slowbooks.jp(11月上旬~)
店舗外観

店舗は戦火を免れた貴重な建物。
改装のために壁をはがすと、昭和16年の新聞が貼ってありました

絵本コーナー

押し入れは絵本のコーナーとして活用。
棚の下は、マグネットで遊ぶ子どもたちの姿が

【スロウな本屋が主催するイベント】

◆ちいさなてつがくしゃ「みんな、ピカソ!」

日時:11/8(日)11:00~12:00 参加費:2000円
内容:絵本を読んで自分で考える子どもになるワークショップ。ナビゲーターはタケシマレイコさん(デザイナー&イラストレーター)

◆絵本で子育てワークショップ

日時:11/12(木)10:30~11:30 参加費:1000円
内容:子育てに絵本をどう取り入れるかを学ぶ

軍場さん

スロウな本屋さんには、暮らしを大切にするヒントを得られる本がたくさん。今日のワークショップに参加したことで、子どもの心に何かが残っていると思います。

←「ちいさなてつがくしゃ」のワークショップに参加するため兵庫県芦屋市から来店した
軍場(くさば)尚見さん

古本ながいひる

古本×ビール×音楽
内観

「何を読んだら分からないという若い人が、本を読むきっかけにもなればうれしい」

ビールとライブと古本と

 きちんと整列した映画や音楽の本、ラベリングされたCD。本もCDも丁寧に扱われていることが分かります。「自分がお客として行ったときに面白いなと感じる場所にしたい」と思った木村まことさん(33歳)は、本も音楽もお酒も好き。だからビールも飲めるし、ライブも楽しめる古本屋さんとしてオープンしました。「音楽に興味のある人が来て、本も好きになってくれたら」と、神戸のレコード店で働いていた経験や人脈で、お気に入りのミュージシャンに声をかけ、不定期でライブを開催。最近は本を買いに来る常連さんが、ライブにも参加するケースが増えています。本好きの人が音楽も楽しむ場所になっているようです。

 名刺の裏には「私たちはもっとユーモアのセンスが必要だ」という英文が。ユニークな店主に話しかけたら、もっと本が好きになる予感。遊び心がくすぐられるディープな空間を体験してみて。

【古本ながいひる】
岡山市北区大学町3-9 小林ビル2F
☎086(207)2638
11:00~21:00営業 第2・4金曜定休
nagaihiru.tumblr.com

宮脇書店総社店
ヒロシゲマエ

新刊×食品×雑貨
「古書五車堂」コーナー

新刊書店なのに、なぜか古本専門店「古書五車堂」コーナーが。同店の自由度の高さが伺い知れます

カップとコーヒーの本

カップのそばにはコーヒーの本、浅漬け鉢の隣に漬け物の本、鉄製のフライパンのそばにはレシピ本。
雑貨と本を組み合わせて紹介しています

直原さん

「生麹を売っているお店が少ないので、毎週の入荷でもすぐに売り切れるんですよ」と直原さん

「ヒロシゲマエ」の一角

「ヒロシゲマエ」の一角。話題の施設があれば、バスをチャーターして社員で見学に行くほど社員教育を重視。そこでの学びを店づくりに反映させています

自由度の高い新刊書店で
よりリアルな体験ができる

 ㈲ヒロシゲ文庫が経営する「宮脇書店総社店」では、平成26年2月、食品と雑貨の売り場「ヒロシゲマエ」をオープン。ヒロシゲ文庫の入り口前に作ったからこの名前に。

 みそ屋さんによる麹(こうじ)の話、作家のサイン会、消しゴムはんこワークショップやけん玉イベントなど、ここに来る人は、リアル書店で、よりリアルな出会い・体験・発見を楽しんでいます。売り場には冷蔵庫もあり、備中地方のみそやしょう油、ポン酢など地元の食品を買い求める人の姿も多数。ヒロシゲマエ担当の直原由紀さんは「生活に本は欠かせないもの。あまり本に興味のない方も、食品や雑貨を見ながら、それに関係する本を一緒に選んでいただけたら」と話します。

 東京にある小さな出版社「ミシマ社」に、社長と直原さんで話を聞きに出向くなど、本作りの現場にも足を運ぶ意欲的な姿勢に脱帽。そのミシマ社代表を岡山に招いてトークイベントも開催します(表参照)。

【宮脇書店総社店】
総社市井手1049-1
☎0866(92)9229
10:00~22:00営業 無休 Pあり
soja-jp.com

【ヒロシゲマエが主催するイベント】

◆ヒロシゲ古本横丁

日時:10/24(土)10:00~16:00雨天中止
会場:宮脇書店総社店の駐車場
内容:古本屋さんが大集合(451ブックス、
and books、MILBOOKS、マドレーヌひよこ堂、
古書五車堂、吟遊堂)。
kobacoffeeのコーヒー、横丁カレーのカレー、ミニライブも

◆いま、「地方×仕事」を考える

日時:11/3(祝・火)15:00~17:30
会場:旧内山下小学校・3階被服室
   (岡山市北区丸の内)
料金:1800円 (要予約。当日も受け付け)
出演:三島邦弘・ミシマ社代表×西村佳哲・リビングワールド代表
内容:ミシマ社初の雑誌「ちゃぶ台」を体感するイベント。ちゃぶ台を囲みながらトーク。地方で起こっていることやこれからの仕事を考えます
問い合わせ:☎070(5677)6762直原さん

古本喫茶 一刻堂

古本×カフェ×イベント
外観

奉還町商店街のアーケードを抜けた先にあります

内観

カウンターやテーブルでコーヒーを飲む常連客(カフェは有料)。
大岡さんとのおしゃべりを楽しみにやって来ているそう

常連の発案によるイベントも

 大政奉還の奉還金を元手に武士が商売を始めたのが奉還町。店主の大岡千尋さん(63歳)は、神奈川県で小学校教員を勤め上げ、2年前、退職金でこの店をスタートさせました。「だから奉還町は私にぴったりなんです」

 教員時代の総合学習の経験が大岡さんのフィールドを広げ、児童文学の世界にも足を踏み入れました。古代史に興味があり、考古学研究会や歴史研究会に所属するというほどの歴史好き。歴史と児童文学の古本が多いのも納得です。

 着物で散歩する「着物の日」は、常連の若い女性のアイデアにより、一刻堂が商店街に呼びかけて実現したもの。ほかにもお茶を飲みながら語る会などのイベントがあり、幅広い年代の人が参加しています。

【古本喫茶 一刻堂】
岡山市北区奉還町3-7-17
☎086(362)7271
☎090(4418)3838
月・木=13:00~19:00営業
金・土・日=10:00~19:00営業
火・水・第1土曜休み ※臨時休業あり
ikkokudou.blogspot.jp

古書五車堂

古本×出張
外観

五車」とは、〝5台の車に積むほどの多くの書物〟を意味する中国の言葉。
「以前の職場で仕事を教えてくれた先輩が、昔、神戸で営んでいたのが、五車堂書店。その方は亡くなりましたが遺族の許可を得て名前を継ぎました」

内観

一冊の本について参加者で語り合うリビングカルチャー倶楽部「読書会」では、妻の浜本典子さんが講師を務めています

本に精通した夫婦が経営

 以前は大型古書店に勤めていた中川幸徳さん(40歳)が、夫婦で営む古書店。浜にある店舗以外にも、イベントや夕方市で出張販売をしたり、カフェに常設棚を設けたり。街中で「古書五車堂」の名前を見掛けた人もいるのでは。

 「岡山の歴史があるからこそ自分がある」という思いを持つ中川さんが作る棚には、古代から近代まで郷土の歴史・文化の本がぎっしり。美術展の図録のほか、仏教美術、焼き物、書道、陶芸など美術の本も充実しています。

 全体的に、箱に入った本が目につきます。「昔は箱入りの本が多かったんですよ。20年も30年も前の本と出会えるのが古本屋の醍醐味(だいごみ)。江戸時代の書物もあります」

【古書五車堂】
岡山市中区浜3-11-7-105
☎086(272)9779
10:00~20:00営業 不定休 P3台
gosyado.com
内観

一人で出版社を営む島田潤一郎さん(東京在住)

「町には本屋さんが必要です」

「町には本屋さんが必要です」会議(町本会)を全国で主宰してきた島田潤一郎さん(夏葉社代表)からコメントをいただきました。

 僕は小さいころから本屋さんが大好きで、本屋さんがあったから本が好きになり、今、この仕事をしています。本屋さんに行けば、初めて目にする知らない題名の本が数多く並んでいて、自分の価値観とは異なる本とも出会えます。そんな町の本屋さんが文化を支えてきたのだと思っています。現在、急激に書店が消えつつありますが、生活の範囲から書店が消えると、人と本との接点が少なくなり、文化がやせ細ってしまいます。

 また書店は、家でもなく、学校でも職場でもない、第三の居場所「サードプレイス」の役割も果たしてきました。僕も孤独なときは近所の本屋さんに通い、何も買わなくても追い出されるわけではなく、ほっとできる場所があったから救われていました。あのとき僕が必要としていたのは、本や雑誌というより、本屋さんそのものだったのです。今の若い人たちにもサードプレイスが残されることが、社会にとっても良い結果をもたらすと考えています。

「リビングおかやま」「リビングくらしき」2015年10月24号掲載

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